Urbans ,LLC / アーバンズ合同会社

第十七回「三つの経済理論」

経済学は使えない学問だとよく言われます。

それは基本的には経済の法則上、

景気や恐慌を阻止できないからではないからだと思われます。

また、できるとしても、即効性のないものや、

一般庶民にまで効果があらわれるのに時間がかかるものだったりします。

なおかつ、経済政策といっても、理論がいくつもあり、

たいていはそれらの理論の妥協で決まってしまうので、

お互いの理論が効果を打ち消しあってしまうこともままあるようです。

たとえば、アベノミクスで金融緩和措置を行いましたが、

消費税増税も併せて行ったことに対して、

ノーベル経済学賞受賞者のクルーグマンは苦言をていしました。

金融緩和でお金のめぐりを良くしようとしたのに、

増税などしたら消費者がお金を使わないではないかというのですね。

まったく正反対の作用を及ぼす政策を行っているのです。

これでは呆れられるのも当然ですよね。

しかしながら、理論家たちの議論の中で、

安倍首相も妥協をしていくつかの案を取り入れるしかなかったのかもしれません。

とはいえ、大きく言えば、経済の理論は三つしかありません。

ミクロ経済学、マクロ経済学、マルクス経済学です。

それぞれの主張を簡単に紹介すると、

ミクロ経済学は経済活動を自由に行うという自由主義、

マクロ経済学はある程度は国家の規制や

手を加えたほうがいいというケインズ主義、

マルクス経済学は世界レベルで

環境や人間にも配慮を行うマルクス主義といったところでしょうか。

歴史的には、経済学は18世紀に誕生しました。

そのころの経済学は、封建時代ということもあり、

経済活動を活発化し、

王政にたいして経済はレッセフェール(なすにまかせよ)という

自由主義にすべきだと主張されました。

たしかに、あの頃の最優先課題は、

ギルドなどの専売などを解体して

自由競争をもちこむことでさらなる経済発展が見込めたので、

当然の主張だったとおもいます。

ところが、経済には不況がつきもので、

いくつかの不況を経験した後、

1929年には世界恐慌という史上最悪の大不況が訪れてしまいました。

アメリカでは四人に一人が失業したと言われています。

その結果として植民地を持たない国が、

海外への輸出先を求めて二度目の世界大戦へと進んでいくことになってしまいました。

戦後はこのような自由主義への反省もあり、

ケインズという理論家が、

需要は国家が生み出せば良いという理論を生み出しました。

いわゆる公共事業ですね。これは画期的でした。

国家が経済に口出しをして良いことになれば、

完全雇用も福祉制度の充実も夢ではなくなるということになります。

ソ連という資本主義のライバルがいたこともあり、

欧米は労働者への待遇もよくする必要があったのです。

また、封建時代にくらべて経済活動は

十分に自由化していたこともあったのでしょう。

こうして60年代にはアメリカですら

「グレイトソサエティ」の名のもとに

福祉制度が多少なりとも作られてきたのです。

ところが、70年代に入ると、オイルショックや財政赤字などが重なり、

国家の赤字が問題になってきました。

さらに、政府による企業への規制や増税などは、

「大きい政府」とよばれて忌み嫌われるようになったのです。

日本でも、「公共事業」は汚職や賄賂がついてまわっているとして、

あまり良いイメージがない人もいるのではないでしょうか?

そこで、なんとまた自由主義が復活してきました。

「新自由主義」という名前にかえて。

世界的には80年代から頭角をあらわしてきて、

さまざまな業界の規制緩和が行われてきました。

第九回にもちらっと話したとおりです。

日本では2000年代の小泉改革が有名かもしれませんね。

その流れのなかで、「小さい政府」や「民営化」が行われてきました。

自由競争を行えば経済成長が促され、

生活が豊かになるというのですね。

もちろん新自由主義に対する批判は多いです。

格差が拡大していることはその批判のおおきな的のひとつでしょう。

ところが、最初に申し上げたように、

新自由主義者からすれば、

まだぜんぜん新自由主義の経済政策が行えていないからこそ、

不況が長引いているのだと言えます。

ところで、マルクス経済学はどこへ行ってしまったのでしょうか。

さまざまな要因のもと消えつつあるのですが、

そのひとつに、

これといった処方箋を生み出せなかったということがあるように思えます。

労働者を保護するにしても、

その母体である企業が潰れてしまっては意味がありません。

しかし、そのための処方箋はほんとうに経済成長だけなのでしょうか。

成熟社会となるとどうしても経済成長は見込みづらくなります。

ほかの経済のあり方の可能性だってほんとうはあるのかもしれません。

以上が経済理論の大枠だと思われます。

それでは、どの経済理論が正しいのでしょうか。

これが極めてむずかしい問題なのです。

なぜなら、視点の違いによる理論の相違だからです。

ミクロ経済学は、一企業がどのように動くかということを見ています。

一方で、マクロ経済学は国家単位で経済をみています。

マルクス経済学は資本そのものの動きをみています。

そのため、どの理論でもその視点からの正しさがでてしまうのです。