今回は、フランス・ドゥ・ヴァールの『道徳性の起源 ボノボが教えてくれること』をご紹介したいと思います。
みなさんは道徳とは何かと考えたことありますか。
善いことをすることだったり、ルールを守ることだったり、人を助けることだったり、
いろいろ思い浮かぶことがありますよね。
これらのことはできる限り「すべき」だと私たちは教わってきました。
ところが、なぜそれを「すべきなのか」というとその根拠はよくわかりません。
このような問題について西欧では昔から議論がなされてきました。
たとえば、カントという哲学者は、誰にとってもいいことに違いないことを自分で考えて、
そのルールを遵守することが大事だと理性を中心に考えました。
でもこれがたいへん難しいことはわかりますよね。
ほかにも、人間はもともと「動物」のように欲望的だから、
教育をして人間社会のルールを遵守できるような「人間」にするのだといった性悪説などもあり、
道徳をめぐる議論はなかなかまとまりませんでした。
そのような中で、ゴリラやボノボなどを研究する類人猿学者が、
類人猿を通じて道徳の根拠を探るというのが本書です。
類人猿の研究は動物を通じて人間性の根拠や特徴をさぐるため、
私は非常に好きな学問分野なのですがみなさんはどうでしょうか。
さて、本書では、道徳性の基盤は「共感」だと述べています。
この共感は実はチンパンジーやゴリラなどにもみられるもので、
その共感の心から痛みを感じ取って同情したり、助け合ったりもしているそうです。
ペットを飼っている人は、ペットの優しさを身に感じたこともあるのではないでしょうか。
さらに、チンパンジーのようにコミュニティの序列に従う精神から、
規則を守ることなどへと発展していき、
各社会独特の「道徳」ができるということを指摘しています。
そして彼は最後に大きな展望を掲げています。
人間が道徳的な感情を持って生まれたとなると、
宗教などのように外から道徳を教育するような機関は必要なく、
コミュニティにおけるルールだけで十分に思いやりのある社会を作れるというのです。
日本では宗教なんて必要ないと思っている人が多いためにピンと来ないかもしれませんが、
アメリカでは熱心なクリスチャンが10人に1人はおり、
また、信心深さは別にしても多くの人がクリスチャンのために、
なかなか勇気のある発言でもあったと思います。
現に本書ではほとんど動物か宗教の話で埋め尽くされていました。
というわけで、人間には動物にも見られる共感の心や公平性の心が道徳の基盤として存在するというわけですね。
もちろん本書の魅力はその主張だけでなく、
具体的な動物たちの行動の実例にもあります。
群れとしてはお荷物のはずの怪我をした仲間を必死で助けたり、
実験の報酬としてきゅうりを喜んでもらっていたチンパンジーがとなりのチンパンジーがぶどうをもらっているのをみて腹を立て、
実験に協力しなくなったりと、面白い話がてんこもりです。
ただ、前述したとおり宗教の話が多くてもしかしたら読みづらいかもしれないので、
もし興味があれば彼の前著『共感の時代へ』をおすすめします。
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